almost everyday.

its a matter of taste, yeah

「きみの鳥はうたえる」舞台挨拶付上映


  • というわけで、フォーラムへと馳せ参じた次第であります。きみの鳥はうたえる、夏の終わりにふさわしいとしか言いようがない映画でした。このタイミングでこんなふうにじっくり余韻を噛みしめる機会を与えていただけるなんて、これは一体どんな種類の幸福なのでしょう。映画の見どころや感想は既に巷にあふれているので、こちらからは監督のコメントなど印象に残ったところを挙げておきます。
  • Q)「僕」「佐知子」「静雄」3人の自然体の演技が印象的でしたが、演出等はどのようにされていましたか。
  • A)本作での演技をよく「自然体」と評していただけるのですが、僕としては「やったぞ、騙してやったぜ」という感じで(笑)。彼らは皆、きっちり仕事としてあの演技をやりおおせてくれました。演出する上で心がけていたのは彼らの信頼を得ること、互いにリスペクトし合うこと。撮影期間を通して適度な距離感や緊張感を保つことが、よい演技に繋がったと感じています。
  • Q)舞台を函館に移すきっかけはどのようなものでしたか。また、キャスティングはどのように決められたのでしょうか。
  • A)函館のシネマアイリスという老舗映画館が20周年を迎えることから企画がスタートしました。僕は札幌出身で、それまでは函館を訪れたこともないくらいだったのですが、今回はベテラン監督よりも若手に任せてみよう、という経緯があって声をかけていただいています。柄本くん、染谷くんとはもともと友達で、酒を飲むなどプライベートの顔を見知っていたこともありすぐに画が浮かびました。石橋さんは、まだ女優として何の色もついていない頃にあるプロデューサーを通じて紹介してもらったのがきっかけです。すぐに気に入って、他の短編にも出てもらいました。
  • Q)3人が酒を飲みながら口琴を鳴らす場面がユニークでした。なぜ口琴だったのでしょう?
  • A)原作ではビートルズの楽曲が絡む印象的な場面なのですが、予算の都合(笑)でどうにもままならず…。とは言え、あの場でいきなりギターを弾いたりするのはちょっと違う。何かもっと手軽に鳴らせる楽器はないか、口琴はどうだろう?となった時にたまたま柄本くんも染谷くんも口琴を持っていることが分かり、そのまま使用することになりました。
  • Q)函館、特にクラブのシーンでは街の様子がいきいきと描かれていました。撮影はどのように行われたのでしょうか。
  • A)映画でクラブの場面となると大抵何か事件が起きたりするもので(笑)、僕自身もうずっと何年もクラブで遊んでいますがそんな危ない場面に遭遇したことはなくて。ただただ楽しいだけなので、そういうところを描こうと考えました。正直、特に何か演出をするとかいうことはなかったです。コンテンポラリーダンサーとしても活躍する石橋さんがとても良い踊りを披露してくれていますが、僕自身も現場で踊っていたりしたので実際にはよく見ていません(笑)。クラブのシーンに関して言えば、当初は連絡船を使った船上パーティーにする案もあったんですよ。でも、僕たちはGLAYのライブを撮ろうとしているわけではないので(笑)、街中の小さなクラブで撮影させてもらうことにしました。
  • Q)2人が暮らすアパートには、ドラムセットの一部やレコードプレーヤーが置かれています。彼らはどのように音楽を聴いているのでしょう?
  • A)彼らはあまりお金を持っていません。ゴミ捨て場によく「ご自由にお持ちください」といった張り紙がありますよね?ああいうものから気に入ったものを選んでは部屋に持ち込んで、彼らなりの秘密基地を作っているイメージです。レコードプレーヤーに関しては、美術スタッフが頑張ってかなり作り込んでくれました。その中にジョニ・ミッチェルのレコードを見つけた石橋さんが、大いに驚きながら「この曲を聴いて佐知子という役に近づこうとしたんです」と話してくれたのは、スタッフとキャストの意図が重なった稀有な出来事でした。
  • Q)卓球に興じる場面が2回あります。最初はただ楽しそうに球を打ち合うだけでしたが、終盤は勝負のように打ち合っていると感じました。この違いを教えてください。
  • A)どちらの場面も、男たちが球を打ち合いそこに佐知子が入れない様が描かれています。3人の関係性が少しずつ変わってきていることに気づいてもらえて嬉しいです。ちなみに、柄本くんも染谷くんも元卓球部で、それぞれ地区予選1回戦または2回戦敗退と聞いています。2人とも、わりと上手ですよね?染谷くんに関してはとてもチャーミングなフォームで、完成版を見た本人が「盆踊りみたいだ」とコメントしていました(笑)。
  • Q)劇中何度か「嘘つき」「誠実でない」という言葉が出てきますが、全出演者の中で最も誠実に仕事をしているのは森口ではないか?と思い感情移入してしまいました。
  • A)実は、スタッフ間で最も人気があったキャストは森口なんです。彼は僕の作品に何度も出演してくれていますが、今回は憎まれ役としてとんな演技を見せてくれるだろうかと。森口は店長に媚を売ったかと思えば裏切るようなことも言ってみたり、何かと不器用なところが目に付きますが、人間誰もが一面的な資質しか持たないわけではないところを描けていればいいと思います。
  • Q)公式サイトに映画批評家蓮實重彦先生が「あと7分半短ければ傑作」とコメントを寄せていらっしゃいます。これは具体的にどこか不要なシーンがあるという意味なのでしょうか?
  • A)これは大変申し上げにくいのですが…(笑)まあいいや、全部言っちゃえ。蓮實先生とはメールでやりとりさせていただいていたのですが、僕が別のインタビューで「本当は100分以内に収めたかった」と言ってしまったのをきっとどこかでご覧になったのだと思います。諸説ありますが、ハリウッド等で名作とされる作品は100分未満という意見も根強いです。なので、具体的に不要な場面があったとかではなく尺としてあのようのコメントになったのではないかと。実際に全部で92分のバージョンも作ってはみたのですが、最終的には削れるところがないと判断してこの長さに落ち着きました。本当に余計なことを言ってしまった(笑)…。
  • Q)日本映画界で刺激を受けている監督はいらっしゃいますか?
  • A)「寝ても覚めても」の濱口竜介監督は6歳上で、僕が大学生の頃にちょうど院を出た世代です。刺激を受けるというよりは憧れに近い存在。より近い世代では、仙台の方もご存知かと思いますが小森はるか監督。僕がもしいつかお金持ちになって劇場をやるとしたら、最初に彼女の「秋田」をかけたい。美しい作品です。小森監督はNOBODYという雑誌で本作へのコメントを寄せてくださっていますので、ぜひご覧になっていただきたいです。
  • Q)あのラストシーンは衝撃的でした。
  • A)原作にはもう少し続きがあるのですか、僕はここで映画を終えることにしました。原作は原作で、完全にここで終わりだと実感できる結末が用意されています。ぜひお読みになっていただきたいです。
  • 取り急ぎ、覚えているのはこのあたりです。他にも思い出せるところがあればまたのちほど。