almost everyday.

its a matter of taste, yeah

Sometimes put myself in the past.---THE CHARLATANS/The Charlatans

たった一瞬で勝手に恋に落ちたあげくの果てに、まさか耳までトリコにされちまうだなんて。その頃の自分にはまったく予想もできなかったのです。このひとになら、腹を舐めて笑わせるどころか腹の中身をえぐらせてあげてもかまわない、半ば本気でそう思ってたっけなぁ。若いって残酷ですね。

ザ・シャーラタンズというバンドの存在を知ったのは、高2の秋でありました。当時の自分は英米オルタナティヴ音楽に熱病のごとく浮かされまくっており、クーラシェイカーやレディオヘッドウィーザーあたりに興奮しつつ黙々と走る体育会系として、軽くねじれた青い春を過ごしていたのですが。現在のようにインターネットが普及するまで、極東の島国における情報源と言えば数種類の音楽雑誌しかなかったわけで。いつものように本屋でそれらを手に取りぱらぱらめくっていた時のこと。一枚の写真に、するりと視線が吸いよせられてしまいました。それは何の変哲もない、新譜発売の広告。何枚ものスナップ写真が組み合わされたコラージュのような広告の、その中の小さな1枚に、目を奪われてしまったのです。モノクロ写真の中でこころもち眠たそうに目を細め、こちらではないどこかを見ながらうすく口をひらいて佇むそのひとを見たとき、ほとんど一瞬のうちに心をうばわれてしまいました。それはもう、あっけないほどまっすぐに。自分でもよくわからないうちに、まったくもって完璧なひとめぼれをしてしまったようでした。

そのお方こそがこのザ・シャーラタンズのフロントマン、ティモシー・バージェスそのひとだったのです。前述の向こう見ずな確信により、セルフタイトルのこのアルバムを試聴もせずにいきなり買って(※高校生にとって、まったく聴いたことのない音源を購入するというのがどれほどリスクを伴う行為であるか想像していただけると幸いです)、それこそ本当に朝から晩まで聴き倒してました。目のみならず、耳まであっさり奪われてしまったというわけです。いや、格好いいんですよこれ。実際。

バンドの編成は、3ピースにボーカルとオルガンを加えた総勢5名。この、オルガンが異様なまでにグルーヴィでした。発情気前の猫みたいに甘く絡みつく音色、そしてさらにその上に乗るティムの声がまたおそろしいほど甘たるいのです。年端のいかない子供みたいな、それでいて妙に湿り気のある声。ドラムベースギターはひたすら堅実にリズムを刻み、鍵盤と声を必要以上に重くも軽くも響かせないよう素っ気ない表情を保っています。何もかもが完璧だ、と思いました。今でもそれは変わりません。この後の彼らは骨太ロケンローに走ってみたりソウルに入れこんでみたりと様々な兆戦を続けていますが、いまでもすっと手を伸ばすのはこの黒盤(勝手にこう呼んでます)なのですよ。どういうわけか。

第一印象がすべてだ、とは言わないにしても。やはりひとめぼれの力は大きいのかもしれません。「こんなに格好いいひとを見たのはこれがはじめてだ!」とばかりに惚れこんでしまってたもんなぁ、自分。ところでこのアルバムのブックレットには、前述の広告写真もひっそりと収められています。こちらをお持ちの方はぜひ手にとって「アイツはどの写真にやられたんだ?」などと想像してみるのも一興かもしれません。写真、けっこうたくさんあるので難しいと思いますよ。正解者には、何かいいものプレゼント。いや、試していただけるのならご用意しますよ?本当に。

ザ・シャーラタンズ
THE CHARLATANS/The Charlatans
TKCB-70609(95.8.28)