almost everyday.

its a matter of taste, yeah

沈没日記・2

  • 明けて金曜。依然として涙は止まらず、食べ物の味が分からなくなり、目眩も併発していることからひとまず仕事はお休みしました。幸い、夏休みはまだ残っているので怪しまれることもないでしょう。不幸中の幸い。
  • 半日涙が止まらない、寝ても覚めても止まらない、だなんてことはどう考えても尋常じゃないので病院にかかろうと考えたのですが、ここではたと思い当たったことがひとつ。何科に行けばいいんだ、こういう場合は。内科?外科?眼科?心療内科?見当もつきません。
  • ひとまずネットで調べてみたところ、ざっくり分けて「身体的な症状が主なら内科もしくは心療内科、精神的な症状が主なら精神科にかかるべき」であるらしいことが分かりました。しかし、現時点で自分がどちらに傾いてるのかがさっぱり分かりません。涙って身体的症状?それとも精神的症状なの?一体どっちよ?いや待て、ならばその辺もろもろ併設されてるところに行けばいいんじゃないのか。うん、そうしよう。というわけで、口コミ等を参考にしつつ市内某クリニックの予約を取りつけることに。
  • こうした現実的な状況判断ができて、なおかつ実務的な行動がとれてる間はまだまだ大したことないんじゃね?ふつうに仕事できるんじゃね?とは自分でも思うのだけれど、ネット見てても電話かけてもぼーっとしててもとにかく涙が止まらないんです。かつて鍛えた努力・根性・忍耐といった体育会系メンタリティも、意志や理性や大人の威厳といった社会人スキル的な武器もことごとく効いてくれない。こうなったらもう薬でも注射でも点滴でもいい、何でもいいから止めてくださいこの涙。ほんとお願い。という藁にもすがる思いでクリニックへと赴いたのでした。
  • 簡単な問診票を書いた後はすぐ診察室へ。診察室というよりは社長室のような、洗練された都会的なデザインのデスクやソファは直線的でモノトーンで人を全く寄せ付けない無機質な佇まいで、白衣をまとった先生は威厳たっぷりにこちらをじいっと見据えてきます。
  • 「それで、まず、症状は?」って、重々しく尋ねられたその瞬間からもう涙がでてきた。いかん。何も喋れない。怖い苦しい言葉が出ない。今の自分はまるで蛇に睨まれた蛙、いいえその蛙に食べられる羽虫よりも無力です。どうしよう。まっすぐに目も合わせられやしない。
  • 「泣いたままでいいですからね、ゆっくり答えて」と訊かれるままにあれやこれやをぽつぽつと。きっかけと思しき事項、生い立ち、家族構成、その他もろもろ。ところどころ突っかえながらも30分ほど話し続けて、今日のところは薬で様子を見ましょうということになりました。そうか、そういうもんなのか、この手の治療というやつは。しかし結局、これって何科だったんでしょうか。あの先生がひとりで全部請け負ってるのかしら。そうだな、そうに違いない。
  • 先生は年配の男性で、前田吟フリスクひと箱一気食いしたらこんな感じになるかしらというクールな表情を終始浮かべておられました。こちらの話に容易く同調することなく、至極冷徹に正論で返してくる辺りには、遠い昔にお世話になったいつかの校長先生を思い出したりとか。うん、教育者って感じだな。それも昔ながらの。
  • とは言え、その正論はこれまでずっと頭の中で何度も何度も繰り返してきた自問自答と何ら変わらないわけで。それで折り合いがつけられるなら、それで涙が止まるんだったら、そもそもこちらのお世話になる必要なんてなかったんです。そのことだけは何とかお伝えできたので、ひとまずここでやるべきことはやれたのかと。
  • それから。先生と話していて、改めて気づかされたことがふたつほどありました。今後のために、これも一応メモしておくことにします。
  • まずひとつ。これまでは上司に無理難題をふっかけられるたび「はあ?」「おだづなよこのくそバカたれが」「なあーにかだってんだおめ、バガであんめ」「したっけ、わがでやったらいいべ?おら知んに」みたいな罵詈雑言をありったけ浴びせまくっていたのですが(脳内で)、最近ではもうその勢いすら失せてただただ悲しい気持ちになってたんでした。何を言おうとどんな行動を起こそうと無駄だ、何があっても覆らない。それを思うとやりきれない。だったらいいや。もう何も言いたくない。という感じで。
  • それからもうひとつ。ここ数日、頭の中で全く音楽が鳴っていないことに気がつきました。気分がいいとき悪いとき、浮かれたときや沈んだとき。他にもいろいろ、ふとした拍子に頭の中で勝手に曲が回り出すことがよくあった、というよりそれが自分の中では当たり前だったのだけれど、いつの間にやらそれがぴたりと止んでしまってた。それは、とても心許ないことでした。使い慣れた眼鏡を無くしてしまったような、見慣れたほくろがある日突然消えてしまったような、大事にしていた時計が突然動きを止めてしまったような。
  • 薬が効いたのか、ひとまず涙は収まりました。それに深く眠ることもできました。ありがたいです。乾いた枕で眠れることがこんなにも幸せだなんて知らなかった。おやすみなさい。