almost everyday.

its a matter of taste, yeah

2009年第8回・さいきん読んだ本

10.見えない誰かと / 瀬尾まいこ
見えない誰かと (祥伝社文庫)
「天国はまだ遠く」「卵の緒」がとてもよかった、その著者によるエッセイ。表紙のハムスターにおいでおいでされるみたいに引き寄せられて、ためしに最初の一節を読んでみたら何だかえらく気持ちが和んだのでそのまま買っていっしょに帰ってきてしまいました。ものすごく真面目で実直で頑固で、でも(本人曰く)大雑把でがさつな著者が、日々の些細な出来事をいつくしむように書き留めているその姿がひどく清いものに思えました。真面目にこつこつ、だけど少しはヘタレなところもある。ていうのがひどく素直で正しいものに思える、というか。
ほんのすこしだけ説教くさく(あるいは教訓めいて)思えないこともないけど、教員採用試験を目指してる学生さんが読んだらきっと得るものが多いんじゃないかと思います(瀬尾さんの本業は中学校の先生)。一日のしめくくりにちょっとずつ読む、ていうのがいいかも。

11.ボクの音楽武者修行 / 小澤征爾
ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)
新潮文庫の100冊、今年の一冊め。何の予備知識もなしに買ったので、てっきり「大成してからの追想録」だと思っていたらば20代の、まさに武者修行の真っ只中のリアルタイムドキュメント的な内容でした。たったひとりでスクーターとともに貨物船に乗り込んで海を渡り、ヨーロッパやアメリカのコンクールをまるで道場やぶりのように勝ち抜いて頭角をあらわしていくその過程はさながら冒険物語。終始わくわくしながら読んでました。奔放な、それでいて細やかな文章はもぎたての果実みたいにみずみずしいです。
そうそう。留学先から家族へ宛てて書かれた手紙が基になっていることもあり、文中にたくさんの写真が登場するのですが、そのうちたった一枚だけ甥のあのひとに息を呑むほどよく似た写真があって胸がぎゅうっと苦しくなりました。あのひとはいまどこにいるの?

12.金閣寺 / 三島由紀夫
金閣寺 (新潮文庫)
新潮文庫の100冊、今年の二冊め。遠い昔に現代文の授業でさわりだけ習ったおぼえがあるようなないような、そんな感じでこれまたほぼ予備知識ゼロのまま購入。だからといって「金閣寺の放火事件」が実際にあった出来事だということを知らないまま読了、ていうのはさすがにどうかと思いました(文末の解説を読むまで完全にフィクションだと思ってた)。恥ずかしい。
ガチガチに硬いのにどこか繊細な文章の秘密は、漢字とひらがなのバランスにあるのかな?なんてことを思いました。書かれていることはえらく難解なのに、するんとうどんをすするみたいにひと息に文章が入ってくるというか。でもって、それを咀嚼するうちに新たな感想がわきあがってくるというか。読もうと思えばぐいぐい読める、でも頭がそれに追いつかない。というこの感覚はこれまであまり味わったことのない類のものでした。おもしろいけど疲れることは疲れる。
思えば自分、これまでまともに読んだ三島作品は「三島由紀夫レター教室」「潮騒」「不道徳教育講座」の3冊のみでした。代表作をまったく読んできていない、という事実にあらためてびっくり。これから毎年ちょっとずつ読んでみようかしら、なんて考えてみたりとか。