almost everyday.

its a matter of taste, yeah

寝苦しい夜の夢

「肌寒い夜、わたしは見知らぬ男の子とふたり、車の中で折り重なるようにして暖をとっていた。色が白く髪は黒くつややかで、闇の中でもよく光る目をもった男の子だった。わたしたちはお互い、相手に対する根拠のない好意をもっているようだった。それでいよいよ唇を重ねようかというときに、突然窓を叩く音がした。」
「おどろいてドアを開けると、髪が長く美しいが空虚な顔つきの女の子が立っていた。彼女はぎらぎら光る銀の金槌を手にこちらを見つめていて、ものも言わずにフロントガラスめがけてそれを振り下ろした。ガラスは割れずにぐにゃりとへこみ、そこを取り囲むようにして蜘蛛の巣のようなひびが入った。」

「それを見た男の子は怯えて逃げ出し、後に残されたわたしはたまたまその場を通りかかった赤黒い顔の男といっしょに、喋らない笑わない彼女を病院へ運ぼうと話し合った。しかし『家へ車を取りに行く』と言い残して消えた男はいつまでたっても戻らない。」

「わたしは彼女を警察へ連れて行こうと考える。すると彼女は初めて口を開き『あなたの家へ行きたい』と言う。少し迷ったが夜も更けて心細いので、彼女の言うとおりにした。とても長い道のりだった。しかしどういうわけか先を歩くのも道を案内するのも彼女の方で、わたしの家だと指差す建物にはまったく見覚えがなかった。ふと窓に映った自分の顔を見ると、これもやはり見覚えがない。まぶたの重そうなくたびれた顔をして、髪はくすんだ銀色をしていた。わたしはあまり驚かなかった。現実とそうでないことの区別がつかなくなりかけていたからだ。わたしは、少し離れたところから道行く人の姿を眺めるような気分だった。」

「通された部屋は壁も家具もリネンも全て真っ白で、そのせいか白熱灯ではなさそうな灯りがひどくあたたかそうに見えた。天井がとても高く、3階までの吹き抜けになっている。部屋の奥で手招きする人影に目を凝らすと、先ほどの男の子がにこやかに微笑んでお茶だかスープだかをすすっていた。わたしはソファに座るなり、一気に疲れが押し寄せてそのまま深く寝入ってしまう。眠りにおちるその瞬間、右の頬に、男の子のあたたかな手が触れた気がした。それは、つい今さっきまで熱いマグカップを包んでいたことを思わせるあたたかさだった。」

「わたしは目を覚ます。テーブルを挟んだ向こう側には男の子と女の子、それにあの赤黒い顔の男が並んで腰を下ろしていた。眠る前と変わらないのはわたしだけのようだった。彼らは兎のような赤い目をして苦しそうに、そして悲しそうに泣いていた。『何が悲しいの?』と声をかけてみる。すると彼らは一斉に、抑揚のない声で『あなたが変わってしまったことが』と言う。わたしは言葉を失って、高い天井の奥の一点を見上げる。彼らは涙を流し続ける。わたしは割れたフロントガラスのことをあてもなく考えている。」

・・・・・・恋人を持つ身でありながら、他の男を夢に登場させた報いでしょうか。けさ目を覚ました瞬間、思わずガラスのへこみ具合を確認しそうにうろたえるほど夢と現実の区別がつかなくなっておりました。おかげで本日、すんごい寝不足。何度も何度もうすく目を覚まし、結局うつらうつらとしか眠ることができませんでしたもの。今日こそはぐっすりと眠りたいです。検査結果も問題なかったしな。それではおやすみなさい。