almost everyday.

its a matter of taste, yeah

私は、マリア・カラス

  • というわけで今月21日の公開を心待ちにしていたところへ、青山シアターよりオンライン試写会のアナウンスが。早速申し込んだところ運よく当選、ひと足お先に鑑賞の機会を得ることができました。ありがとうございます。
  • 映画を見終えた今、特に強く心に刻み込まれているのは何よりもまず、あの唯一無二の歌声に他なりません。自宅のPCでヘッドホンに耳を押し当てて聴き入る60年前の録音がこれほどまでに鼓膜と胸を震わせるなら、生の歌声は一体どれほど凄まじかったのだろう?と考え込んでしまう。合唱団を従えて伸びやかに歌い上げる「清らかな女神よ」、黒いドレスに身を包み表情豊かな小悪魔ぶりを見せつける「恋は野の鳥」、愛した男の裏切りと歌の世界が渾然一体に溶け合った「歌に生き、恋に生き」、どれもこれも全身総毛立つ歌唱。ため息。
  • 70年に収録されたというインタビューを軸に歌唱映像、空港/会場入りの様子、オフショット、観客による(おそらく無断での)撮影映像と手紙の朗読で構成される本作は、装飾や演出を極力排したストイックなドキュメンタリーであると感じました。が、こうでもしないとマリア・カラスのあの堂々たる存在感を生かしきるのは難しいかもしれません。目力がすごい、オーラがすごい、言葉のひとつひとつがすごい。アップショットのみならず、画面のどこにいてもたちまち目が吸い寄せられてしまう圧倒的な華々しさはまさしく大輪の花のよう。彼女の名を冠したバラが存在するのもさもありなん、と頷ける話です。空港のタラップを降りる姿や会場前でマスコミに追われる姿が何度も映し出される構成は起伏を欠いた繰り返しにも思えましたが、コアなファンにはどれも貴重な映像なのかもしれません。
  • 朗読は「永遠のマリア・カラス」で本人を演じたファニー・アルダン。序盤では極めてクールに冷静に読み上げられる手紙が終盤、息も切れ切れに訴えかけるような声色へと変わりゆくさまには、心に負った傷の深さが推し測られて胸が苦しくなりました。前述の通り、ゴシップ的な描写や脚色がほとんどないのでこうした事実も淡々と語られるのみですが、その潔さが悲しみをより際立たせたようにも思います。あらゆる点において、気高く美しく完璧であろうとする信念を感じるドキュメンタリーでした。その後の話はまた後ほど。