almost everyday.

its a matter of taste, yeah

気味のわるいもの

さっきお風呂に入っていたら、遠くかすかに妙な声が聞こえました。声がわずかに遠ざかったり近づいたりしていることから考えるに、これは焼き芋屋なんかによくある販売車のようです。が、それにしては何やら声がおかしいような気がします。何がどうおかしいのかはわからないまでも、確実に何かがおかしい。そう思いました。しかし言葉の中身までは聞き取れないので、首をひねりながらも本を読み続けることしばし。いよいよ車がうちの前にさしかかったらしく、これまでになくはっきりと音声が聞こえてきました。いわく、
「♪わらびもち わらびもち 甘くておいしーいっ つめたくておいしーいっ わらびーもち だよー」

・・・・・・わらびもちの移動販売・・・?そんなの聞いたことがありません。この界隈に出没するのは大抵古紙交換か廃品回収、夏ならアイスクリーム屋の派手なピンクトラックを時折見かける程度です。売れるのかそれは。と内心こっそり突っ込んでいたら「♪はやく来なーいと 売れちゃーう よっ」とさりげなく煽り文句まで盛り込まれてたりして。そう言われてもなぁ・・・。何なんでしょう。妙です。とても怪しい。

しかし。この販売車の怪しさの正体は「わらびもち」という販売物の特異さでも「煽りの突飛さ」でもありません。やはり決定的なのは「声」でした。若くもなければ年老いてもいない男の声で伴奏も抑揚もなく、ただひたすら平坦に単純なメロディでもって繰り返される「わらびもち」という単語。これを何度も聞かされると、男の声がどんどん粘って響いてくるような気がするのです。妙な具合に疲れやいらいらや性欲が溜まって沈んで澱になって、その上澄みの部分が少しずつ狭められてくみたいな粘りかた。そこに思い当たった瞬間、背筋がひやりと凍りつくようなおそろしさをおぼえました。あー怖い。とりあえずこの夏は、わらびもちを一度も食べず過ごすことになりそうです。きっと見ただけで思い出してしまいますもの、あの声を。あああ、夢に出そう。

明日晴れたら病院へ行きます。どうか空いてますように。おやすみなさい。