almost everyday.

its a matter of taste, yeah

スウィング・キッズ

  • 午後、フォーラムでスウィング・キッズ。少し前に予告編をみた時点で「これはもう間違いない、絶対わたしの好きなやつ」と確信し公開を心待ちにしておりました。大正解。とてもよかった。
  • 物語の舞台が1951年の巨済捕虜収容所、つまり朝鮮戦争という史実をベースに架空のタップダンスチームが躍動するという筋書きなもんで、戦時下における閉ざされたコミュニティでの対立構造や個々の心情が丁寧に描かれるほどエグみが増すというか、そういう意味では観る人を選ぶ類の映画だろうなという想像はわりと安易につくわけです。端的に言って、かの戦争に翻弄された歴史やその悲しみをを共有できるバックボーンがなければそもそも興味を持ちにくい題材かもしれない。とは言え、その苛烈さや陰惨さが極まるほど渾身のダンスシーンの数々が輝きを増すのは紛れもない事実であって、ここんとこはもう好みの問題としか言いようがなさそう。観てくれ、とりあえず諸々の先入観はいったん置いといて劇場の椅子までたどり着いてくれ、そしたら絶対最高だから。ダンスや音楽を好む人なら間違いなく楽しめるから。踵でリズムを刻みたくなることうけあいだから。
  • 先述のとおりダンスシーンが素晴らしいのはその目で直に各々確認していただくとして、踊っていないシーンでの細やかな演出もいちいちぐっとくるものばかりだったんです。特に胸が躍るのは、未知のダンスをたまたま見知った主人公ロ・ギスが文字どおり寝ても覚めてもタップダンスに心を奪われゆく一連のシークエンス。食材を刻む包丁、洗濯物を叩く棒、大きく風をはらんだ布、果ては同胞たちの寝息や歯ぎしりまでありとあらゆる音が渾然一体のリズムとなって彼を夢中にさせていくあのワクワク感ときたらもう!青年と呼ぶにはまだ幼く、少年と呼ぶには気が引ける数多の苦難をくぐり抜けてきたであろう若い男の斜に構えた目が生き生きとした光をたたえていく描写、観ていてたまんなかったですね。この俳優を主役に据えた時点で製作陣には勝機が見えていたのではなかろうか、という気がしてしまう。
  • この主人公を導くタップの師として登場するのが米軍下士官のジャクソンで、戦前にはブロードウェイのタップダンサーだったという経歴の持ち主として描かれるわけなんですけど、演じるジャレッド・クライムス自身もまた元ダンサーとあって全編にわたり絶品のステップを惜しげもなく披露してくれるんですよね。柔らかな陽だまりの中、きらきら輝く踵や爪先に目を奪われながら軽快なリズムに身を委ねるのは本当に気持ちよかった。
  • ダンスチームの面々も凸凹ながらばっちりキャラが立っていて、4か国語を操る才媛にして商才にも長け歌って踊れて家族を養うヤン・パンネの健気さとしたたかさは清楚にしてキュート。生き別れの妻を追うカン・ビョンサムは画面のどこに映っていても存在感抜群、いっそ顔芸と呼んでしまいたい豊かな表情のバリエーションに釘づけでした。対照的に寡黙ながらも独特の間と卓越したダンスの腕前で観るものを笑顔にさせるシャオパンは、色白のもち肌がまるで大柄な赤ちゃんのよう。寄せて集めて無理やり作ったチームにすぎないはずの5人が、やがて互いを守り合おうとするまでに心を通わせていく脚本、すごく良いわ…。
  • 終盤、カーテンに身を隠したロ・ギスがおもむろに練習に加わろうとする静かな緊張感に満ちたあの場面で、戸外から小さく鳥のさえずりが聞こえてきたのが何だかびっくりするほど良くて、こういうところを丁寧に描く作品は信用できるっつうかむしろさせてくれと強く思ったんでした。憧れの靴を手にした瞬間の彼の笑顔を直接映さず、靴の裏の金具に淡く反射させるという描きかたもたまらんかった。ところで、序盤のあの超絶コザックダンスはさすがにCGだったんでしょうか。伝説の英雄は元からああいうキャラだったの?それともPTSD的なアレ?いい味出してたちっちゃなあの男の子は、額に変な文字入れられそうになってた彼は、アカの黒幕だったあいつはその後どうなったの…?いろいろ気になって仕方なくてパンフ買ったんですが知りたいことは何ひとつ書かれてなくてしょんぼりしました。何なら日本版wikiすら存在してないじゃないか。うわーん!その後の話はまた後で。