almost everyday.

its a matter of taste, yeah

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

  • チネでライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー。主演のニコラス・ホルトは顔のベースがユアン・マクレガーで口元の造形が要潤、線の細さと目の鋭さが林遣都にそれぞれ重なるところがあるぞ…という見立てがあちこちぐいぐい転がってくのに驚きながら観てました。最初と最後で、顔つきがまったく違ってる。
  • ストーリーは実在した作家の青年期にスポットを当てて描いたもの、というわけで見知ったエピソードがいくつも登場するわけですが、そのひとつひとつが丁寧に掘り下げられて描かれるので初めて知ることも多かったです。映画の冒頭を出征中、つまり苦悩の時期とした上でそこに至るまでを振り返る脚本が巧みでした。師であり編集者でもあるウィットとの関係性をここまでじっくり描くとは少々意外。対照的に女性関係はどれもさらっと描かれていて、特に最初の妻なんて別れの気配も事実もすっ飛ばされてたような気が。最大のトラウマであるところの戦争に関しては、尺を割きすぎず多くを語らずとも十分に過酷で残酷だったと思います。戦後のPTSD描写も含めて。
  • 観ていて胸がざわざわしたのは長編を出版後、かつて「夢は叶わない」と諭した父が息子を認めて労う場面。子を案ずる気持ちは普遍的なものであろうし、道を誤って傷つかないよう導くことが親心とも頭では理解できるのだけれど、成功を収めてやっと自分を認めた父を息子は内心きっと見下したはずで、それが観ていてとてもつらい。金に困った恩師がすり寄ってくるのもつらい。許しを経て友好的に袂を分かったであろう描写には救われたけど、実際のところはどうだったんだろう。
  • さらには、長編に心酔し「どうして僕のことがこんなによく分かるんです?」と詰め寄るファンをすげなく扱ったことで「あんたも嘘つきのインチキだ!」と糾弾される、つまりは作家の分身であるホールデンのそのまた分身が生みの親である作家自身に刃を向けてくるのも相当つらい。隱遁先で学校新聞のインタビューに答えたつもりが新聞に売られた有名エピソードも、こうして見るとめちゃくちゃしんどい。そりゃ、人を信じられなくもなりますよね…ともろもろ腑に落ちた気がしたんでした。
  • NY時代の社交界を彩るジャズナンバーが執筆その他の場面でも効果的に使われていたのは、とてもクールで小気味よい演出と感じました。特に、有名紙への掲載や出版が決まった場面での喜びを控えめに爆発させるところがいかにも粋だなあと。
  • それにしても、ケヴィン・スペイシーの含蓄ありつつ時に俗っぽくもあるあの佇まいの素晴らしさよ…。映画とは関係ないけど、どうしてあんな馬鹿なことをしたんだあああああと今さらとても悔しくて仕方ありません。つらい。つらいよ!