- ここにも何度か書いた覚えがあるのですが、わたしは訛ってます。とてもとても訛ってます。
- それで実際どのくらい訛ってるかというと、めったに行かない東京砂漠で年配のクライアント様(後で聞いたら北関東のご出身でした)とはじめましてのご挨拶を交わした直後に「…いやあ、懐かしいです。癒やされます…」と相好を崩されたりするし、昔むかしS区内某所で面接を受けた時などは開始早々面接官に「いやー、すごいですね。福島の方ってこんなに訛ってるんですね!」と目を見開かれもしました*1。
- というのも。わたしの生まれ育った場所には、そもそもイントネーションという概念が存在しませんでした。そこはいわゆるズーズー弁の聖地でした。そんなんだから成人するまで「蛸」と「凧」の違いをついぞ理解できなかったし、「橋」「端」「箸」に至っては死ぬまで正しく発音できる気がしません。おっちゃんおばちゃんの一人称は男女を問わず「おれ」or「おら」の二択だし、母親はさらに山奥のスーパーハードコアに訛ってる辺りの生まれでした。「しゃで」「せなさま」「ほいど」「ざらんぽ」が日常語として飛び交う環境。こと訛りに関しては、わたしはハイパーエリートサラブレッドとして生まれたのだと疑いなく言い切ることができます。
- ちなみに、これは余談ですが。父方の伯父は上記の訛りのみならず、カ行(主にキとケ)を上手く発音できないという謎の呪いの十字架をも背負っていました。にもかかわらず家族全員の名前にカ行が入っていて、伯父がその名前を呼ぶと完全に別人になってしまうのが憐れを誘いました。嫁の名はケイコなのにチエコとしか聞こえないし、ハルキ・フユキという名の息子はハルチ・フユチといつまでたっても幼児もしくはゆるキャラみたいだった。ハルキ・フユキの兄弟(二人ともいかつい)にこれらの呪いが遺伝しなくて本当によかったと思います*2。
- 閑話休題。なにゆえ今さらこんな話をしているかというと、現在繁忙期を迎えつつある仕事でタッグを組む相手がよりによって同郷のおじいちゃんなのです。打ち合わせは主に電話で行いますが、そのやりとりがどう考えてもアレすぎるんです。「ほらっけ」「したげど」「わがんね」「いーでは」「ほだげんちょも」等、およそ敬語とは思えない接続詞と語尾の応酬。なにぶん切羽詰まった内容でもあるので、会話は次第にヒートアップします。おじいちゃんの言葉が直接耳に届いているわたしには至極まっとうなやりとりでも、わたしの声しか聞こえていない周囲の同僚にとっては「そういう訛りを操る部族が存在するのは知っているが、実際に見聞きするのはこれが初めて」という状況。これはまずい。非常にまずい。
- 何がまずいって、同僚の視線が痛い。わたしを見る目が完全に珍獣を見るそれへと変わってしまいつつあるのです。いやいや待てよ、お前の同僚ふつうに全員福島人だろ?結局みんな訛ってんじゃね?大差なくね?とお思いかもしれませんが、違うんです。旧D郡H町〜R町は周辺地域と比較しても明らかにあからさまに本当に本気で訛ってるんです。いや、訛ってたんです。現在その近隣にお住まいの方の名誉のために付け加えておくと、昭和30年代生まれ世代くらいまではものすごく激しく訛ってたんです。そういう親に育てられた自分はこれでも一応昭和50年代生まれ、決してネイティブとは言い切れないし自分でそれを自在に操るまでの境地には達していないのですが、1対1で立て板に水のプロ訛りを聞かされた日にはそりゃもう見事にやられますよね。引きずり込まれますよね、そっちの沼に。かくして、齢40を目前に控えた今頃になってネイティブスピーカーの千本ノックを受ける、という状況が生まれ得たというわけなのでした。
- ここまで書いて今気づいたんですけど、この仕事ってば、もしかして他の同僚じゃ意思の疎通すらままならなかった…?ということに思い当たって戦慄してます。いつぞや偶然目に留めてなるほどと膝を打ったこのビジネスをふと思い出したりもした。この道を極めていけば、わたしもいずれそっち方面に転職できるんじゃなかろうか。どうだろね?はて。
- そんなこんなで月曜からぐったり疲れて明日はお休み。いやっほう!骨を休めます。おやすみなさい。