- 出張帰りに長町で天才作家の妻 40年目の真実。賞レース絡みで結構な話題になってるはず、にも関わらず近隣ではここしか上映館がないってのはこれ如何に。見終えたいま思うこと、それはただひとつ「良くも悪くもグレン・クローズのための映画」という厳然たる事実についてです。
- 貞淑、献身、葛藤、歓喜、憤怒、諦念、赦罪。ありとあらゆる心の機微を表情ひとつでありありと感じさせる「妻」の訴求力は凄まじいもので、見終えた誰もが口々にその力量を讃えるのも頷けます。が、そこを推したいがために演出がややベタになりがちと感じました。グレンのアップ、多すぎ。劇伴がストーリーを先導しすぎ。数秒先の展開を分かりやすくガイドするかのような親切さが、メロドラマのごとき陳腐さをもたらしているように思えてなりませんでした。特に授賞式のシーン、観客の拍手にわざわざ音を被せてまで流すべき曲だったのか?あれは?と少なからず疑問に思った次第であります。
- 一家がストックホルムへ赴く機内から終盤までずっと、まるで亡霊のように画面の奥に居座り続けるクリスチャン・スレーターの不気味さと食えなさと曲者感ったらもう、たいへんスリリングで油断ならなくて頼もしかったです。カメラのピントが彼に合うたび、あるいは不意にどこからともなくフレームインしてくるそのたびことに「来た来た来たー!」とわくわくしている自分がいました。真っ昼間から盃を交わし煙草をくゆらせる頭脳戦、あのシーンこそが本作の見せ場であると言えましょう。
- 声色を変え脇道に逸れ、言葉巧みに本丸へとにじり寄るクリスチャンの舌の滑らかさはまさしく勝負師のそれといったうさんくささに満ちていて、それを迎え撃つグレンもまた一筋縄ではいかないのですよね。分かりやすい挑発に乗るようなヘマは犯さず、うっかり口を滑らせる事もなく、何を言われても軽くいなしてそれでおしまい。受け身が完璧。ダメージ0。この辺のやりとり、見ていてめちゃくちゃしびれました。ものすごく格好よかった。
- オチには大いに不満があって、結果がどちらに転ぶとしてもあともうひと悶着欲しかったのひと言に尽きます。あれはないわ…。他にもっと書き足したくなったらまた後ほど、今日のところはおやすみなさい。