almost everyday.

its a matter of taste, yeah

THE WATTS / kokyu @サテンドール2000

  • はじめましてのサテンドール2000はビルの地下、白熱球に照らされた階段を下りきった先の細長い会場でした。扉を開けてすぐ目の前から左手にかけてバーカウンター、右手に据え付けのテーブル席が7~8ほど。テーブル奥のステージはフロアと全く同じ高さで、向かって左寄りにグランドピアノが鎮座しています。リハ中のkokyuは男性7人態勢、離れた席から見ている分にはだいぶ窮屈そう。ステージ幅が狭く奥行きが深いためか、正面からだとギタボとサックスが完全に重なるセッティングが組まれていました。やりづらそう…?
  • この日のkokyuはTHE WATTSのオープニングアクトということで30分強のセット、全8曲。まだまだ足りないもっと聴きたい、と願ってしまうのもやむなしと己を宥めようとする気持ちもあるにはあるんですが、冷静に振り返ってみるまでもなく1時間超のロングセットが実現したのは今年に入ってからのことなんですよね。それまではずっと30分足らず、何なら今日より短いくらいのステージで不完全燃焼という名の飢餓感を募らせてばかりだったんです。
  • 話はちょっと逸れるんですけど実際のところ、5つも6つも対バン出てくるライブとかもう余裕で一生分みてるわけです。オーディエンス歴も20年を超えるとね、本当にね。若かりし頃、再入場不可のヤニくさい密室で6時間超耐久レース*1みたいな感じの過酷すぎる対バンライブを多数経験してきたおかげで、多少のことには驚かないし足腰だって同年代に比べればそこそこ強いに違いないと確信しております。でもね。ダルいとか疲れるとか終電ヤバいとかいう身体的または時間的問題よりずっと「これほど待ったお目当ての演奏がほんの20~30分で終わってしまう」というやるせなさが耐え難かったんですよ。ずっと。そういうふうに長年抱え込んできたモヤモヤを雲散霧消させてくれる今のkokyuはほんっと最高だなあと思うわけです。タイムマシンで8年くらい前の自分に会えるものなら教えてあげたい、2017年のkokyuは10曲以上みっちり演奏した後アンコールにまで応えてくれるんだぞ、しかもツインドラム編成になってるぞって。たぶん絶対信じないと思うけど。
  • 本編ラストorクライマックスで演奏されるのは大抵いつも「目をつぶってダンス」でしたが、この日の〆は「目を閉じないで」。いずれも終盤へ向けてじわじわギアと体温を上げていく曲でありながら対照的なタイトルが付けられていて興味深いです。もっとも、今日の場合は先述のとおり物理的な問題でスティールパンが使えなかった可能性もあるわけですが。実際のところはどうなんだろう?
  • メインアクトのTHE WATTSは60年代結成の英プログレバンド、ヘンリー・カウのティム・ホジキンスン&クリス・カトラーにロンドン在住の女性ミュージシャン、ユミ・ハラを加えた3ピース。寡聞にして存じませんが、その界隈では伝説的存在としてその名を轟かせているのみならず35年ぶりの来日そして初来仙、と何だかすごいらしいことだけはよく伝わってきました。プログレ周辺、ベタなところの上澄みしか知らない自分がここにいていいんだろうか、という疑念が少しばかり。
  • それで本編は、約50分に及ぶインプロ1本勝負。あれはええと、何て言ったらいいんだろう。絶対音感を持った猫がおのおの楽器の上でうとうとしたり飛び跳ねたりして、ある瞬間ごとに点から線へと一気に音像が開けていくようなひらめきを感じる演奏でした。ティムさんはギターのネック部分を水平に置いたような弦を叩いたり弾いたり弓で撫でたりしていて、クリスさんはドラムセットだけじゃなくアンプの縁まで叩いていて、ハラさんはグランドピアノの屋根から直接弦に触れたりしてた。定型と自由の境目が極めて曖昧かつ不思議なものを見た/聴いた、という印象が強く残りました。
  • その演奏を聴きながら何とはなしに思い出していたのは、ついさっき鳴子で食べてきた玄米昆布のおむすびのことでした。地元のひとの手によって滑らかな三角形に整えられたおむすびは、そっと指でつかんで口に運ぶとすぐにほろほろ崩れてしまいます。必要最低限の力と絶妙なバランスで成立しているその三角形は、別の力が加わればすぐに跡形もなくほどけてしまう。そうした儚さや触れがたさを思うときにさえ食い意地が先に立つ己を省みつつ、2杯めのビールを飲み干して会場を後にした次第であります。終演後のセッション、kokyuの曲で合わせるとしたらどれが映えるだろうな、等と思いを馳せながら帰途につきました。starsDUBとか聴いてみたいです。
  1. ゲダウェイ
  2. 畜生
  3. 不明(既に何度か聴いたインストの新曲だった気がする)
  4. 回教徒の朝
  5. 新曲(『話がしたい』という歌詞をくり返すほう)
  6. 海まで
  7. 目を閉じないで

*1:なお当然のように出演順は明かされない