almost everyday.

its a matter of taste, yeah

タヒチにっきその3

午前3時、タヒチ島のフィアア国際空港に到着。上着を脱いで地上に降り立ったその瞬間、身体全体をふわりと包む生暖かい空気と湿気に思わず「夏だあぁ」とため息がもれ出てきました。つい半日前までもこもこの上着を着てマフラー巻いてたのが、なんだか冗談みたいです。入国審査のゲートまで歩く途中、朝というよりまだ真夜中だというのに楽器を抱えたおっちゃん達が歌いながら歓迎してくれました。こんな時間に大変だなぁ。がんばれタヒチのおとうさん。

審査完了後スーツケースを受け取り、二手に分かれて相方は両替(ものすごい行列)、わたしはガイドさんの説明を聞きに。ここでもティアレを渡されました。しかも今度は一輪ではなく、例のあの、いわゆるフラワーレイというやつです。おお、いよいよ本気で南国っぽい。ほんとに来ちゃったんだなぁ、こんな遠いところまで。何となく心細いような途方に暮れてしまうような気持ちです。ああ小心者。

それはさておき、ひとまず今後の移動予定についておさらいを。まずはこの空港から国内線に乗ってボラボラ島へ渡ります。そこから船に乗り換えて20分ほどで島の中枢・ヴァイタペ港まで無事にたどりつければ、ホテルの人が迎えに来てくれているのだそうです。ちなみにこの旅、当然ながら添乗員さんは付きません。現地の言葉をほとんど何も覚えられないままこの日を迎えてしまいました。そして、タヒチおよびその周囲の島々をひっくるめた正式名称は実際のところ「フランス領ポリネシア」というのです。フランス語なんてジュテームとボンジュールとメルシィくらいしかわかりません。ついでに言っておくとわたくし、TOEICはおろか英検すら受けたことがなかったりします・・・。そんなんで海の向こうへ渡ろうだなんて無謀としか言いようがありませんが、今となってはもはや手の施しようもありません。そんなわけで教訓その3:やるべき事にはさっさと手をつけましょう。後々、この言葉の問題がちょっとしたピンチを招くことになるのですがそれはまた詳述するということで。両替も無事おわったし、とりあえずは国内線に乗り込みます。
タヒチとボラボラを1時間で結ぶこの飛行機は、内装も設備も至って簡素。チケットだってカーボン式の「これは宅配便の伝票かしら?」っつうほど頼りなく薄っぺらいものです。50〜60人くらいは乗ってるはずなのに、助走も短くさくっと飛んでさくっと下りるお手軽さ。飛行機というよりは高速バスとかそっちのほうに近い感覚です。大丈夫なのか。
離陸直後に夜明けを迎え、眼下に広がるボラボラの海を初めて見たときは、ほんの一瞬自分の目がいかれてしまったのかと思いました。何というかもう、北半球生まれの身には想像もつかないようなあざやかさなのです。青い絵筆を洗ったみたいな、あまりにも現実ばなれした色がぶわーっと目に飛びこんでくるんですよ!泣くかと思いました、本当に。目ぇ見開いたままずっと窓の外ばかり見てました。綺麗すぎる。
飛行機を下りたあとの手続きは、拍子抜けするほど簡単なものでした。空港の造りもよく言えば開放的、逆の意味で言うならかなり大ざっぱ。さすがは南国です。滑走路わきにごろごろと転がるパパイヤの実がワイルドでかっこいい。天気はあいにくの曇り空ですが、降ってないだけまだましでしょう。なんてことを考えながら船に乗ってヴァイタペ港まで。これは30人乗りくらいの小さなフェリーといった感じです。階段をのぼりデッキに出ると、青というよりほとんどエメラルドグリーンに近い水がすぐ数メートル先に見えました。周囲は全員日本人、カップルばかり5〜6組。だんだん人が少なくなっていきます。心細いようなわくわくするような、妙な気分。
そしてヴァイタペ到着後、ホテルの人と落ち合ったらば、いよいよ我々ふたりだけになってしまいました。もう逃げられません。ていうか逃げようもありませんが。トヨタのバンを駆ってきてくれたそのひとは真っ黒に日焼けしたヨーロッパ系の男性で、痩せた身体の至るところにタトゥーを入れてました。正直言って怖いです。相方と顔を見合わせながらも車に乗り込み、おどおどしたままホテルまで。人生初の右側通行です。怖さ、ますます倍増。よくよく考えてみれば自分、左ハンドルの車に乗るのもこれが初めてでした。当たり前ですがシフトレバーも右手で操作するんですね。そしてもちろんマニュアル車なんですね。・・・右と左がそっくり入れ替わっただけなのに、何だかまるで違う機械を見ているような気分になります。
ところでタヒチの車事情はというと、フランスってことでやはりプジョーが圧倒的に多い模様。フォルクスワーゲンほか欧州車に混じってトヨタやいすずが数多く走ってるのにも驚きました。空港近くにはダイハツのディーラーもあったなあ。見知らぬ土地で見慣れたロゴを見かけると、それだけで何となくほっとします。がんばれ日本経済。
20分ほどの道のりを経て、ホテル到着。この時点でまだ朝の5時くらいです。にもかかわらずフロントの女性(いかにもリゾート地のパリジェンヌ、といった風貌のうつくしい中年女性。以後『女主人』と表記)は優雅にほほえんで、ひらひらと手を振りながら椅子に座るよう促してくれました。入口に窓も扉もない、屋根だけのこぢんまりとしたレセプション。これまたいかにも南国です。言われるがままに宿泊者カードへの記入を済ませると、英語で「朝ご飯どうするの?この辺はまだどこも開いてないわよ」いうようなことを訊く女主人。ヒアリングだけは比較的まともにできそうな自分にちょっとだけ安心したものの、その後反射的に口をついて出てきたおのれの返事はあきれるくらいにしょうもないものでした。「うぃーあー、はんぐりー!」って、しかも両手でハラおさえながら言う事じゃないだろう自分、26にもなって。しかし優雅な女主人はにっこり笑って奥のレストランを指差してくれるのでした。こういうおバカな観光客の相手にも慣れてるんでしょうね、きっと。ごめんなさい。着いてからこっち、どうも反射的に謝りたくなる瞬間が多くなってきたように思います。ああ、日本人だなぁ自分。
 
で、案内されたレストランはこちらもやはりオープンスタイルでした。朝早いせいかビュッフェはまだ手つかずのまま、我々の他に誰も来てません。カットされたばかりの果汁したたるフルーツが、中央のワゴンにぎっしりまるでサラダのように並んでます。他にもパンやコーヒー、各種ジュースなど基本的にはコンチネンタルブレックファストの形式をとっている模様。さっそくあちこち取り分けて、地上に下りてから初めての食事をとりました。黄色いスイカもスターフルーツも、目にしたことはあるものの口に入れるのはこれが初めてのものばかりです。わたしはたぶん、ものすごーく世間知らずなのでしょう。心底実感。

事前に旅行会社から渡されていた行程表によれば、この後14時までは部屋に入ることができないはずだったのだけれど、どういうわけかこの食事を終えたあと、いともあっさり部屋に案内してもらえました。え?いいの?と戸惑いながらも後に続き、まずは靴をぬいでぐたりと横になることしばし。ハワイアンキルト風のカバーがかけられたベッドは、余裕で3人眠れそうな広さです。この部屋は水上コテージと呼ばれるタイプのもので、テラスには梯子がついておりそこから直接海に入れるというステキロケーション。床の一部はガラス張りになっていて、下を泳ぐ魚が直接見えたりします。すごいなー、なんだかものすごい贅沢してるみたいだなー。とまるでひとごとのような感想しか出てきません。このままここにいたら時差ボケと気疲れであっという間に眠ってしまいそうなので、荷をほどくのもそこそこに再び外へ。自転車を借りてもういちどヴァイタペまで行ってみることにします。
これはタヒチおよびその周辺の島すべてに共通することのようですが、タクシーはどこも本数がおそろしく少ないのだそうです。しかも特定のタクシー乗り場からでないと乗れず、原則として流しのタクシーは存在しないとのこと。さらにはバス(タヒチではル・トラックと呼ばれています。フランスぽいな)も少ない上、そもそも時刻表というものがないのだとか。そして、運転手のおっちゃんは乗客がいなくなるとそのまま直接家に帰っちゃったりすることもあるんだそうです。・・・すごい。ワイルドすぎます。びっくりするほど時間がゆっくり流れる感覚、ここにいたら頭痛も肩凝りもなくなりそうな気がしますよ。いいなぁ。とは言うものの旅行者にとってこれは移動の足がないということであり、すなわち観光に出かけるのがむずかしいという致命的な痛手でもあるわけですが。我々の場合はひたすらゆるっと過ごすためにタヒチを選んだこともあり、選択肢が少ないぶん却ってすぱっとシンプルに身の処し方を考えることができてとても好都合です。もしかしたらここは、面倒くさがりにうってつけの旅行先かもしれません。
そんなこんなで、とりあえず自転車。ぐるりと一周しても30キロちょっとという小さな島ゆえ、この辺のホテルでは大抵レンタル用のものを用意しているようです。ここでは半日または一日単位で借りることができる模様。現地語混じりの英語に頭をわずらわせながらもどうにか一応2台レンタル、4時間後には戻ると告げてヴァイタペへ。車で20分の道のりも、自転車だとちょっとしたエクササイズです。道端には無数の穴が開いており、カニがあちこちで音もなくすいすいと歩いてました。よく見てみると、至るところがカニだらけです。いちいちいろんなことに驚かなくなってきた自分に対して、軽くつっこみを入れたくなってきました。ちょっと慣れるの早すぎねえか、俺。教訓その4:見知らぬ土地ではあんまりはしゃぎすぎないこと。がんばりたいけど無理っぽいです。視野狭窄なもので。
ちなみに我々が借りた自転車は右ハンドルにしかブレーキがついておらず、しかもペダルを逆回転させるとこちらもブレーキになる仕組みでした。普段から、下り坂などでペダルを漕ぐのをもてあましたときつい何となく後ろにぐるぐる漕いでしまう癖があるわたしは、何度かうっかりそれを忘れてあやうく死にかけました(急ブレーキでよろけた瞬間、すぐ後ろから重機を積んだトラックが走り抜けたのです。シャレにならん)。それにサドルがやたら高いし硬くてすぐにおしりが痛くなるし、というわけでお世辞にも乗り心地がいいとは言えませんが、性能としてはペダルが軽くすいすい進んで漕ぎやすかったです。ボラボラの人は意外に合理主義なのかもしれません。
途中から陽が出てきたので自転車とめて日焼け止めを塗りなおしたりしつつ、1時間ほどでヴァイタペ到着。まずはテレホンカードを買いました。行程内容確認のためガイド会社へ電話を入れようとしたら、公衆電話はどれもカード式で小銭が使えないのです。こちらでは、テレホンカードというのは郵便局で手に入れるものらしいですよ。実際に触れてみたそれは日本のものよりずっと厚くしっかりとした造りで、金色の小さなチップが埋め込まれてました。なんだかとても高価そう。40度数入りで2000CFP(うろ覚えですが)、実際にずいぶん割高ですね。

その後、みやげもの屋に自転車を置いてあちこち散策。島の中枢とは言っても、半径わずか数百メートルほどの小さな街並みなのであっという間に端から端まで歩けてしまいます。喉がかわいたので最初の店(観光客向け)で500ml入りのエビアンを買い求めたあと、少し離れたスーパーマーケット(地元民向け)で同じものを確かめてみたら何と30CFPもぼったくられていたことが判明。Tシャツなんてほとんど同じデザインでも1000CFPくらい違います。ボラボラ人の商魂を思い知りました。おそるべしリゾート地。
わたしの見た限りでは、いかにも旅行者向けのみやげもの屋よりもスーパーマーケットのほうがずっと魅力的でおもしろい場所のように思えました。これは何もボラボラに限ったことではないのだけれど、個人的にはどこへ行ってもその土地での生活が見えるお店に行きたいものだと考えがちなせいかもしれません。タヒチの名産品はブラックパールとのことであちこちに高価そうなお店があったけど、結局その後もまったく見ないで終わったもんなぁ。つくづく安上がりな我々。
 
ここではひとまず、暑さしのぎにアイスバーを食べて蚊取り線香とビーチサンダルを買いました。日本から持っていったものがつっかけ式ですぐ脱げてしまうので、海に入っても平気なものが欲しくなったのです。ボラボラに限らずタヒチの海は珊瑚礁が多いので、裸足で入ると足を痛める恐れがあるのだとか。現地の皆さんも愛用しているこのサンダルはわずか1000CFP、サイズもかなり豊富でした。やっぱり安上がり・・・。スーパーの品揃えは、南国ものとフランスものが混在していてその独特なバランスぐあいがおもしろいです。妙なものもおしゃれなものも、皆いっしょくた。見てるとわくわくしてきます。そういえば、菓子コーナーではミニサイズのかっぱえびせんを見つけました。パッケージの裏側には”loved by japanese”と書かれてましたよ。世界にはばたくかっぱえびせん。まさか南国でお目にかかれるとは思いませんでした。すごいな。
スーパーを出てみやげもの屋をひとまわり、タヒチの民族衣装であるパレオを一枚買い求めました。淡い水色の地に細く不規則なストライプ模様が入っていてとてもきれいです。さまざまな巻き方のバリエーションがあるらしいので、どれかひとつはマスターしたいところ。海ではこれを着たいなぁ。
帰り道は追い風のせいか、行きよりもずっと早くホテルに戻ることができました。自転車を返そうと思ったら受付に人がいないので、仕方なくレセプションに鍵を渡して早々に自室へ。タヒチにはシエスタ?の習慣があるらしく、大抵の官公署やお店はどこも正午から14時くらいまで仕事をしないのだそうです。そのくせ店じまいは異様に早く、ちょっと値の張るレストラン以外はどこも18時前に閉まるのだとか。聞けば聞くほどうらやましい話です。なんて素敵なんだ。慣れない自転車を漕いでくたびれたせいか、テラスの椅子に寝そべったまま小一時間ほどうとうとしてしまいました。お昼ごはんさえ忘れてた。シャワーを浴びて髪を乾かし、本格的な眠りについて目覚めたらちょうどお夕飯の時間です。これで時差ボケも解消されたはず。と、思いたいところ。
 
20時すぎ、朝食と同じくホテル内のレストランへ。朝とはずいぶん雰囲気が違って見えます。うーんムーディー。長旅疲れと寝起きのためあまり食欲もなく、サラダとハンバーガープレートだけで軽めに済ませる・・・つもりが、フレンチフライ山盛りであえなく撃沈。だれが食うんだ、こんなに大量の芋を。それと今晩に限りハネムナー特典としてカクテルが振る舞われたのですが、スクリュードライバーのベースになぜかズブロッカが使われており、ものすごーくクセの強い味がしました。ふつーはカクテルに使わないだろう、ズブロッカ。たぶん二度と飲むことはないはずだけどとにかく強力でした。
食事のあと、あすは何をして過ごそうかと話し合い。レセプションに置いてあるアクティビティ一覧ファイルをめくりながらあーでもないこーでもないと相談するうち、ファニーキャットなる名の二人乗りジェットスキーを発見。「ボラボラでは今これが熱いぜ!(※実際には英語ですがたぶんこんなニュアンス)」という煽り文句が気に入ったので申し込んでみると、残念ながらこちらは既に予約で一杯とのこと。しかたがないので午後にマッサージ予約だけ入れて部屋へ引き上げました。明日は泳ぐぞ。といったところでこの日は就寝。おやすみなさい。